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東京地方裁判所 昭和26年(行)56号 判決

原告 込田三郎

被告 東京都知事

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が東京都豊島区池袋一丁目七百三十九番地の八原告の借地七坪に対し過小借地として原告の借地権を消滅させ地上建物を除却させたことに関する特別処分は、これを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として、

原告は昭和二十二年二月十七日訴外小暮喜久子より同人所有の東京都池袋一丁目七百三十九番の八宅地四十三坪三勺の内七坪を同日以降向う二十箇年の約定で賃借し、その借地上に木造トタン茸二階建店舗一棟建三坪、二階三坪を所有していたが同所附近は昭和二十一年九月頃より土地区画整理が実施されその結果右宅地四十三坪(原告の借地七坪をも含む)は換地指定の上二十五坪二勺に減地せられた。従つて原告の借地に対しては減地の率によれば約四坪七勺の換地が交付される計算にあつたところ、原告は被告から昭和二十六年九月六日附の原告所有の前記家屋を除却すべき旨の戒告を受取り初めて被告は原告の借地権を過小借地として消滅させる特別処分をなしたことを覚知した。而して右にいう特別処分とは被告が原告に対し原告の借地権を消滅させる旨の通告に初まり以後その清算金の支払が終るまでの間のこれに関する一切の行為即ち(一)昭和二十四年四月七日附原告の借地七坪について特別都市計画法第八条に所謂過小借地に該当するものとして借地権を消滅させ金銭をもつて清算する旨の行政処分(二)昭和二十五年三月四日附書面でなした右借地上の原告所有の家屋に対する除却命令(三)昭和二十六年九月六日附書面をもつてなした原告所有の右家屋に対し除却の代執行をなす旨の戒告(四)昭和二十六年九月十八日附でなした右家屋を除却する旨の代執行命令その他これに関してなされ又は将来なさるべき一切の行為を総称し右は区画整理実施の目的遂行のためになされる一連の行為であつて法律上一箇の行政処分と解すべきもの即ちこれ等全部を包括して一箇の特別処分というのであるが、被告がなした右特別処分は次の理由により違法である即ち、特別都市計画法第九条、第八条の委任命令である特別都市計画法施行令第十三条の規定によれば特別都市計画法第八条の所謂過小借地を定むる基準として、先づ整理施行地区を甲乙丙に区分し甲地区については二百五十平方メートル乙地区については百五十平方メートル丙地区については百平方メートルをもつて、過小借地の基準としているが同法施行令第十三条第一項但書は、右三地区の他に特別地区なるものを規定していてこの特別地区に関しては右三地区におけるような過小借地を定める具体的な基準を示していないから、右特別地区内にある原告の借地に対しては被告はこれを特別都市計画法第八条の過小借地として換地の交付をすることなく借地権を消滅させるような行政処分をなす権限を付与した法律上の根拠は何もない。即ち被告が前記の法律に基いて原告借地を過小借地として借地権を消滅させる権限を有することを前提としてなされた前記処分は法律の解釈適用を誤つた不法のものである。次に同法施行令第十三条第二項によれば、過小借地を定める前記各地区の指定をなすについては建設大臣の認可を要するに拘らず被告はその認可を受けていないから被告のなした特別処分はこの点にも違法があつて取消を免れない。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の主張事実中、訴願を経ていないこと代執行命令が昭和二十六年九月十八日原告に送達されたことは認めるが本訴提起前に訴願を経由すべき理由はない。その余の主張事実は否認する。被告が原告所有の本件家屋を取毀したのは昭和二十六年八月二十九日であつてその時から本訴の出訴期間が進行しその期間を徒過していない。なお前記の通り本件特別処分は具体的な行政行為が不可分に連絡し一箇の行政処分と解すべきであるから出訴期間は全処分について最後の行政処分の時を基準として算定せらるべきであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の答弁として主文同旨の判決を求め、その理由として次の通り陳述した。即ち被告は原告主張の借地に対し原告主張の(一)乃至(四)の行政行為をした。而して原告は借地権を消滅させる行政処分と原告主張の建物の除却を命ずる行政処分とを一箇の行政処分と解すべきであるとの前提の下に本訴を提起したと称しているが、なるほど右処分は土地区画整理施行に関する一連の手続と解し得るけれども建物の除却は換地が与えられると否とに関係なくなさるべきもの従つて、両者の間には法律上の必然的関連なく別個独立の行政処分であるからその出訴期間は各別に算定さるべきである。而して昭和二十四年四月七日附書面による借地権消滅の行政処分は係員我妻亮輔が右書面を原告方に持参したところ、原告はその書面の内容が右の趣旨であることを了知していたため、その受領を拒絶したけれども、これにより右通知の効力が生じている。仮りに原告が右通知の受領を拒否したことにより、右行政処分のあつたことを知つていないとしても更に被告は右書面を書留郵便に附し昭和二十四年五月十四日原告に到達しているから遅くとも同日右通知の効力を生じこれを知つているから右処分の効力を争う本訴はその後六箇月内に提起せられなければならないのに、これを徒過し昭和二十六年九月十日に提起せられたから行政事件訴訟特例法第五条第一項の規定に違反し不適法として却下さるべきである仮に右の理由がないとしても右特別処分に対しては特別都市計画法第二十六条の規定により準用する都市計画法第二十五条第一項の規定により訴願が許されているのである然るに原告は訴願を経ることなく直ちに本訴を提起したものであるから行政事件訴訟特例法第二条の規定に違反し不適法である。

次に建物の除却を命ずる代執行命令については、これが取消を求める原告の本訴請求は訴の変更によつて新訴を提起したものである。即ち、原告は当初訴状に基いて被告が原告の借地を過小借地なりとして借地権を消滅させた特別処分の取消を求めていたもので右は本件の昭和二十六年十月十三日における口頭弁論調書により明かである。而して右特別処分というのは被告が原告に対し昭和二十四年四月七日附で「特別処分について通知」と題する書面でなした原告の借地権を消滅させ金銭で清算する旨の行政処分であつたのに拘らず被告は昭和二十七年三月十七日附同年四月一日提出の準備書面をもつて、従前の請求の趣旨を訂正し被告が本件過小借地を消滅させる旨の特別処分に基いて昭和二十六年九月十八日なした建物の除却に関する代執行命令の取消を求めるというにあつて、右特別処分と代執行命令とはともに同一土地の区画整理に関してなされたものではあるが全くの別箇独立の行政処分であつて一箇の行政処分ではないから特別処分の取消を求める訴に訂正することは単なる訂正ではなく、訴の変更でありこれによつて新な訴を提起したものである而して右代執行命令の通知は昭和二十六年九月十八日附書面で通知し、同月十九日に原告に到達しこれを知つたのである。然るに原告の右代執行命令の取消を求める新訴は昭和二十七年三月十七日附の準備書面によつて提起されたものであるから右代執行命令を知つた日から六箇月を経過し行政事件訴訟特例法第五条第一項に違反し不適法である。なお家屋の除却命令についても右と同様の理由で不適法である。

次に本案について原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中原告主張の土地について原告と訴外小暮喜久子との間にその主張のような賃貸借契約が締結されたこと、被告が小暮所有の土地について二十五坪一合に減地してその換地を交付したこと、原告と借地七坪について過小借地としてこれを消滅させこれを金銭で清算する旨の特別処分をなしたこと、原告主張の家屋の除却命令、戒告の通知代執行命令をなしたこと並に特別処分について建設大臣の認可がないことは認めるがその余の原告主張事実は否認する。

被告がなした前記処分には何等違法なく且つ既に取消得ないものとして確定したものであるが本件家屋を除却すべき旨の除却命令及び代執行命令は、原告主張のように特別処分の一部として行われたものではない。元来本件家屋は都市計画街路である池袋駅附近の街路一号の敷地に存在するので、土地区画整理施行上障害があるため特別都市計画法第一条第一項及び都市計画法第十二条第二項の規定により準用する耕地整理法第二十七条の規定に基き昭和二十五年三月四日附書面で原告に対し本件家屋を除却すべき旨の除却命令を発しこの通知は同年三月五日には到達したが原告がこれを履行しないので更に昭和二十六年九月六日附の戒告書(行政代執行法第三条第一項による)をもつて本件家屋に対し除却の代執行をなす旨の戒告をなし次いで昭和二十六年九月十八日に書面をもつて本件代執行命令を発し同月十九日に原告に到達した。従つて右除却命令並に代執行命令は原告の借地につき仮に換地が与えられて本件のような特別処分がなされなくても原告の本件家屋は除却さるべき運命にあつたのであるから、特別処分と代執行命令とは法律上何等の連結関係はない。してみれば仮に特別処分について原告主張のような違法があつても除却並に代執行命令がその違法性を承継すべきいわれはない。なお本件家屋は代執行によらず任意に除却されたものであるから訴によつてこれが取消を求める利益がない、と述べた。(立証省略)

三、理  由

行政処分に対して不服のある者がその取消を求める訴を提起するには、取消を求める行政処分を特定してこれをしなければならないこと、もとより言をまたない。

原告が本件において取消を求める行政処分なりとして主張するところは当裁判所の度重なる釈明の結果結局「被告が豊島区池袋一丁目七百三十九番地の八の原告借地七坪に対して、過少借地として原告の借地権を消滅させ地上建物を除却させたことに関する特別処分」というのであつて、その日時を指示しない点において且つ関係のある行政処分なる用語によつて複数の不明確な行政処分を包括して、これを一箇のものとしての指示を意図した点において特定性を欠くものといわざるを得ない。蓋し原告は「過小借地として借地権を消滅させ地上建物を除却させることに関する特別処分」なる一箇の行政処分の存在を主張するけれども法律上右のような一箇の行政処分が存在するものと解することはできない。

然しながら原告がいわゆる一箇の行政処分なりとして主張するところは、その請求原因によれば、原告の借地権を消滅させる旨の被告の通告に初まりこれを消滅させる旨の行政処分をなし次で地上建物の除却を命ずる行政処分及びその代執行命令と最後に借地権の対価である清算金の支払が完了するまでの区画整理を目的とした一連の一切の行為を総称するというに在れども、このような包括的な多数の行政行為を一箇の行政処分と解することは到底できない。

而してその具体的な行政行為として掲げるものは請求原因に記載の(一)乃至(四)の行政処分である借地権の消滅と除却及び代執行命令並に戒告であるからこのような行政行為が本件取消訴訟の対象であるものと解釈して判断することとする。もつとも原告は右のような箇々具体的な行政行為を独立のものとして各別に判断の対象とせらるべきことを主張するものではないけれども、右の行政行為が不可分連結の一箇の行政処分と認められない場合にはこれに包摂せられる行政行為を逐一抽出してその違法性の有無の判断を求めるものと推測せられるからである。

よつて先づ原告主張の(一)の行政処分の取消を求める訴について判断する。

被告が原告主張の借地七坪について特別都市計画法第八条に基き過小借地として借地権を消滅させ、金銭で清算する旨の行政処分をなしたことは当事者間に争のないところであつて、成立に争のない乙第一号証、証人及川邦一の証言によつて成立が認められる同第二号証の二、同第四号証の各記載と同証人の証言によれば、被告は、昭和二十四年四月七日附で右のような行政処分をした旨記載した書面をその一週間位後右土地の管轄区画整理事務所の出張所員我妻亮輔をして原告方に配達させたところ、原告はその書面の内容を告げられたので、これが受領を拒絶し、その後間もなく再度受領を求められたがこれを拒んだので、被告は同年五月十四日配達の書面で右の行政処分を原告に通告したことを認めることができる。

もつとも成立に争のない甲第二十一号証(特殊郵便物受領証)の記載によれば原告方に配達せられた右書面は郵便局の引受番号四七一号であつて、前記乙第一号証(郵便物配達証明書)によればその引受番号四七二号となつているから、果して被告の原告宛の書面が原告に間違なく送達されたか疑ないではないが、成立に争のない甲第二十二号証の記載によれば、原告方に配達された書面はC二号特別処分に関する通知書であることが認められ前記乙第二号証の二の記載によれば原告宛の書面はC二号の書面であること明かであるから前記甲第二十一号証の引受番号の記載は郵便局の誤記と認むべく従つて甲第二十一号証は前段認定事実の支障とならず他に右認定を左右すべき証拠はない。

然らば特段の事由ない限り右書面の配達によつて原告はその記載内容である前記行政処分のなされたことを遅くとも同年五月十四日に了知したものと推認すべきである。

而して本訴が昭和二十六年九月十日提起せられたことは記録に徴し明白であるから、行政事件訴訟特例法第五条第一項により行政処分のあつたことを知つた日から六箇月以内に提訴すべき旨の規定に違反し不適法として却下を免れない。

次に判断の説明の便宜上原告主張の第四の代執行命令の取消を求める訴について判断する。

被告が原告主張の地上にある原告所有の建物を除却すべき旨の代執行命令をなしその旨を記載した昭和二十六年九月十八日附の書面が同日原告に送達せられたことは当事者間に争のないところである。従つて別段の事情の認められない本件においては、同日原告において右処分のなされたことを知つたものと推認すべきである。

而して原告が本訴において右行政処分の取消を求める旨の申立をなしたのは昭和二十七年四月一日受附の同年三月十七日附準備書面に基いてなされたものであること記録に徴し明かである。

よつて右申立が新訴の提起であるかどうかの点を考えて見るに、原告が訴状によつて取消を求める旨申立てた行政処分は、被告が「原告所有の借地七坪についてなした区画整理に関する特別処分」であつて、そのいわゆる「特別処分」なる行政行為の具体的内容は不明であるけれども、訴状請求原因に記載の文言の昭和二十六年十月十三日の最初の口頭弁論期日における原告代理人の釈明陳述である「本訴は被告が借地権を消滅させた行政処分の取消を求める」趣旨である旨の同調書記載によれば右の「特別処分」は前記(一)の原告の借地権を消滅させる旨の行政処分を指すものであつて、地上建物の除却をなす代執行命令又は原告主張の(二)(三)の除却命令及び戒告には何等触れていないことが看取せられる。もつとも原告はその後「特別処分」なるものは本件土地の区画整理に関して被告のなした一切の行政行為を包含総称する一箇の行政処分であると主張するけれども、その主張のような一箇の行政処分を考えることはできないばかりでなく、特別処分なる用語自体の中に除却並に代執行命令を当然包含すべきものと解すべき根拠はない。

然らば代執行命令の取消を求める訴は前記昭和二十七年四月一日受附の準備書面によつて提起せられたものというべきであつて、原告が右命令を知つた日から六箇月を経過している。

もつとも借地権を消滅させた行政処分並に借地上の建物の除却の関する行政処分の各取消の訴は前者の違法を理由とする限り請求の基礎に変更ないものとして請求の原因変更により訴の変更が許されるとしても、民事訴訟法第二百三十五条の趣旨に従い新に行政処分の取消を求めることのできるのは、その行政処分についての出訴期間内でなければならない。本件において当初原告が借地権を消滅させる旨の行政処分の取消を求めて訴の提起をなしたのであるが、この訴の提起によつて、後に加えられた代執行命令の取消を求める訴が前者の訴と同時に提起せられ、その時に後訴について出訴期間の遵守がなされたものと解することはとてもできない。(参照最高裁判所昭和二十五年(オ)第二三一号同二十六年十月十六日判決同判例集第五巻第十一号五八三頁以下)

従つて原告主張の第(四)の代執行命令の取消を求める訴も出訴期間経過により不適法として却下すべきである。

次に被告が原告主張の(二)(三)の除却命令及び戒告をなし何れもその旨の書面がその日附頃原告に到達したことは当事者間に争がないので、当時原告は右のような行政行為がなされたことを知つたものと推認すべきところ右(二)(三)の行政行為の取消を求める訴は昭和二十七年八月十六日受附同月十四日附の準備書面に基き同年九月二十二日の口頭弁論期日における原告の陳述により右の訴が附加せられたものと認むべきであるから前記(四)について説明したところと同一理由により六箇月の提訴期間を経過したものとして前同様却下を免れない。

以上の理由により原告の訴を却下し、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西川美数)

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